彼女の生い立ちは、ブリーダーのもとで親やたくさんの兄弟たちといっしょに幼い日々を過ごす・・・そんな穏やかな環境ではなく、ペットショップの売れ残った生後7ヶ月の余剰犬(売れ残り犬)としてほかの小さな仔犬たちといっしょに数匹ずつにまとめられたサークルの中に入れられ過ごしていました。

生後2ヶ月ほどのチワワやウェスティー、パピヨンたちが私の足もとに来て目いっぱい自分たちの感情をあらわに愛想をしてくる中、ダックスの彼女だけがいちばん最後列でただただ上目遣いにポツンとひとり。。。

私を遠くから眺め、寂しい想い、孤独な想い、自分には愛してくれる人・家族がない不安な想いに自分も抱っこをしてほしそうなその表情。でも決して、自分をアピールしようとはぜんぜんしてこないどこか何かコンプレックスを持ったようなその弱気なしぐさ。そして、何とも言えない彼女のニコリともしてくれない寂しげな表情と物悲しげな目・・・。

そんな彼女のことが少しずつ気になり始め、そのペットショップに何度も通うようになりました。私を見るその彼女の表情、しぐさ、その目・・・を憂い、彼女を優先して“抱っこ”しているうちに、彼女も少しずつ私にしっぽを振ってくれるようになっていきました。

そんな中、口減らしのためかショップのオーナーに半ば強引に「タダでいいから引き取ってほしい」と言われ、考えるのに一日だけ猶予をもらい家族と相談し、そして彼女を引き取ることになりました。

私の家には子どもの頃、もう30年以上もむかしに「カブ」と言う名まえのスタンダードダックスの男の子がいました。その影響からか私自身は「ダックスと言えばレッド、スムース」って思っていましたから、正直・・・ブラタンでしかもロングの毛の子は個人的にどこか「違う」と思っていました。また、その「カブ」以降も我が家ではワンはずっと男の子ばかりだったので「次ももちろん男の子」、私が家族にしようと考えていた種類もダックスはまったく眼中にありませんでしたし・・・。

ですから、私は彼女に対し、通っているうちに惹かれていく気持ちはありつつも、初対面からビビッと来たとか、この子じゃないと!!とか、そんな出会いではなかったのです。
「のこ」・・・それは、
今は亡き私のオヤジが、おまえの子、「くろの子=くろのこ」から「のこ」と取って名付けた名まえ。

だから、のこはね。
ずっとずっと!!おまえがいなくなったこれからもずっとずっと!!「くろの子」・・・おまえの子どものまま過ごすんだ。

どこか知らないところに行った子、行かされてしまった子ではなく、せめてのこだけは、いつもいっしょで、絆深く、前世も今世も来世もその次もその次の次も・・・永遠にずっと!!おまえの子として生まれ、離れ離れになることなく、ずっと!!おまえの子として、ずっと!!いっしょなんだよ。おまえはずっと!!「くろかあさん」なんだよ。

そこからでした。
それまでは甘えん坊ながらも、どこかまだ不安げで、寂しげで、それでいて目ヂカラがきつくギラッとした鋭いまなざしを持っていただけのものが、それに合わせてさまざまな明るく穏やかで優しいまなざしに変わっていったのと表情が柔らかくなっていったのは・・・。

甘えん坊は娘の「のこ」に譲って、とても気丈で、子ども想いで、本当に心優しい「くろかあさん」になってくれました。性格もしぐさもこの頃から本当にとても明るく、そして優しくなりました。

もちろん母性というものが彼女の中に具わったこともあるでしょうが、自分自身の本当の家族ができたことで、名実ともに彼女自身もまた我が家の娘になったと思ったのでしょう。

私もまたそれまでは彼女のことは、ひとりの家族として考えつつもまだまだ「ワン」という意識が強かったですが、この頃から一人の「娘」「妹」そして「恋人」という意識が強くなってきました。

そんなことであっても彼女は、自分に守るべき家族ができたことによって、自分なりに親と子の幸せとその家庭での温かさを見出してくれたと思います。


それからはさまざまに明るく、楽しそうで、そして愛おしい表情を見せてくれました。

無事にお産できることを願い、元気で健康な子が生まれてくることを願い、私は京都の仁和寺まで「四つ葉のクローバー」のお守りを授かりに行って、ピンクのそのお守りをおまえの首輪につけてやったんだったね。

そして、子どもたちが生まれたとき、男の子と女の子が何頭ずつか確認して、その子たちが幸せになることを祈って、ふたたび仁和寺まで、ひとりにひとつずつお守りを授かりに行ったんだったね。
その後、ほどなくして子を宿し、6頭の男の子と1頭の女の子が生まれました。
その中から、くろといっしょに暮らさせてやりたい、暮らすことのできる娘(のこ)を有償(4万円)で私は譲ってもらうことができました。
おまえはもうきっと覚えていないだろうけど・・・あるとき、おまえがまだうちの子になる前・・・ペットショップがお休みなのを知らないで行ったら、ウインド越しに、ほかの子たちといっしょに「ワンワンワン!!」とおまえに吠えられたことがあったんだよ。

私はあのときのおまえのことをずっと覚えていたんだよ。今も鮮明に覚えているんだ。

犬は笑わない、犬は表情が表わせない・・・そんなことをいう人もいるけれど、
ボールを取るのに失敗して転べばビックリした顔をし、走っているときは清々しい顔をし、
ボールを見れば嬉しそうに、日向ぼっこしているときは気持ち良さそうに、ウトウトしているときは本当に心地よさそうに、
何より、私に対し、家族に対し、お友だちに対し
甘える顔、ねだる顔、嫌な顔、寂しい顔、楽しい顔、眠たい顔、安心している顔・・・
おまえはいつも純真に心からみんなを愛する顔に変わっていきましたね。
だから・・・

→だから・・・お友だちもたくさんできたね。

くろ、
歯は何とか私が必死に頑張って、お口のニオイもしないほど白く丈夫で健康な歯を取り戻してやったけど、毛質のパサパサなのは、ついに一生掛かっても治らなかったね。あんなにツヤツヤで太陽の光に反射し輝くほどに、きれいな毛をしていたのに。。。。。

しかし、そのペットショップのオーナーは、ほかの子たちのことはいとも簡単に私との約束を反故にし、「今はダックスは売れない!!一匹5千円で、しかもウェスティーを一匹ウチから別で用意してそれに付けたぐらいだ!」と、まるで逆ギレにヤクザかキチガイのごとく言い放ち、私はおろかショップのオーナーすら行方が分からなくなるほどに遠い、東京のペットショップに彼女の子どもたちを勝手に転売していました。


しかも、お産を終えて帰ってきた彼女は、栄養状態がしっかり行き届いていない中で妊娠出産をさせられたせいか、それまで5キロ以上にまでさせてた体重が4キロ弱にまでやせ細り、歯は真っ黄色になるまで、また毛質はそれまで本当に艶やかな毛をしていたものが、パサパサでボロボロに。。。


これが日本愛玩動物協会の理事まで務め、また自らのところで動物用サプリメントまで開発、動物病院にまで販売するほどのショップオーナー、店のやることか!!と私は憤慨し、そのため、私はこのペットショップとは直ちに縁を切りました。

我が家に来て数か月は、表情もあまり豊かではなく、引っ込み思案で甘えん坊で、ごはんやオヤツも小食でほんと、一粒食べては休憩をし、また少し食べては食べるのをやめてしまう・・・。でも、ボールで遊ぶのが大好きで、走るのが大好きで、元気なのはとっても!!元気な子でしたが、1歳を過ぎたときでも体重3.5kgにもぜんぜん満たない、カニンヘンの子と見まがうほど華奢で細い細い小さな娘でした。


その後、1歳半を過ぎたとき、フードやトイレシート、おもちゃなどを買うのにそのペットショップに通っているとき、そのペットショップから子どもを産ますことをお願いされ、私自身も、タダで引き取った負い目と言うのか、そのことから嫌とは言えず・・・。しかし、私からのお願いとして「相手はダックスであること」「生まれた子はショップオーナーの目の届く範囲の方にお譲りすること」を条件にしぶしぶ子どもを産ますことに承諾しました。

しかし、そのショップオーナーはいきなり私との約束を反故にし、お産の相手に最初に選んできた子は折からのMix犬ブームだったせいかチワワでした。私は「それはやめてほしい」と断りました。そして次に選んできた子は、お産の相手には全く適さないような、尻尾曲りで臍ヘルニアを持った遺伝的欠点のあるダックスでした。

ただ・・・私としては、くろを譲ってもらったという負い目から、その相手のダックスを断ることができませんでした。

名まえは、今更7ヶ月で名前を変えてやるのも・・・と、ショップにいるときから仮り名で呼ばれていた「くろ」をそのまま彼女の名まえにしてやることに決めました。